幸せな男 (アカギ+平山):罰符SS 悪牙ナガレ様へ

*越境なし・アカギ19と平山の話です
*全年齢向け・健全(だと思います^^;)
*赤平でも平赤でもなく、うちの二人は普通の友達みたいです。


「あんた、幸せな奴だよな」

唐突に頭上から降って来た声。目は上げない。
上げられない。上げなくても誰の声かはすぐ分かった。
上り始めた朝日を背に受けて、長身の影がオレの上に落ちる。

「何、それ・・・イヤミかよ…アカギ」

喋るのも億劫なのに、つい返事をしてしまうオレも大概お人よしっていうかバカだと思う。

「平山さん、アンタは博打に向かないよって、オレ言ったよね?」

死にたいの?と聞かれた。

「んなワケねぇだろッ・・・」

答えた拍子に酷く咳き込む。腹を殴られているからか、息をするだけでも肺が酷く引き攣る。
肋骨がイかれてないといいなと、ぼんやり思う。

やっぱりコイツはどっかおかしい。
ボロボロになって息を潜めて河原に転がってる人間に、かける言葉っていえば、もっと他にあるだろう?
病院に連れて行けとか、警察呼べとかいう気はねえけどさ。
そんな常識までアカギに求めるほどオレはイかれちゃいねぇ。

「で、勝ったの?負けたの?ヘマしたの?」

まるで今日のおかずは何?と聞くような気軽さで聞きやがる。
怪我人を気遣えよ。この冷血漢!悪魔ッ。

「・・・勝ったよ!・・・麻雀・・・はな……」

「で、逆恨みで絡まれたってトコ?バカだね、そいつ等も・・・」

暗に逃げ切れなかったオレも馬鹿だと言ってやがる。

「…っるセェ!7人も居たんだぞ?」

因縁をつけられるのは慣れたものだ。荒事は好きではないが、ひ弱でもない。
が、流石に相手が多すぎた。
二人を殴り倒して逃げるのが精一杯だった。
ダメージが大きすぎて、未明の街に人通りが出るまでと河原の草むらに転がり込んで、
気付けば気絶するように寝込んでいた。
それを、どう見ても怪我人のオレを、爪先で蹴って起こしやがったんだ、この悪魔は。

「問題ない・・・オレなら、ね」
「〜〜〜ッうっせぇ!オレには問題有だったんだよ!放っとけよ!」

安岡や川田組、周囲の人間から聞いた。辻斬りの噂。チキンランの伝説。
こいつはバケモノだ。絶対にそうだ。

「・・・・・・どうせ、ニセモンだよ・・・・・・」

今はアカギを名乗っては居ないが、体が弱ると心まで卑屈になるのだろうか。
口の中が苦い。震えた声と歪んだ目元を隠すために、腕で顔を覆う。

同年代・似た背格好・顔かたちもサングラスは要るが誤魔化せないほどじゃあない。
珍しい髪の色まで一緒なのに。
アカギに出会うまで、自分の能力に絶対の自信を持っていたのに。
この髪も眼も、オレを嘲笑した奴を、裏に立てる伝説で見返してやる筈だったのに。
全てが一瞬で終わり、安岡とのコンビも解消・川田組からも放逐されて、
オレに残ったのは、恥知らずな劣悪な粗悪品という汚名だけだった。

「別に、アンタが弱いって言ってないじゃない・・・博打に向いてないってだけでさ」

泣くなよ。と存外に優しい声が振ってくる。
泣いてねぇよと言い返すオレの声を無視して、シュと小さな擦過音と燐の香り。ついで、朝露に混ざる夏草の涼しい香りにハイライトの強い香りが混ざる。

「平山さんはさ、純粋に雀力だけで言えば強い部類に入ると思うよ」

紫煙を肺深くから押し出しながら珍しくアカギがオレを褒める。

「ただ、だからカモとしての旨味がないからね、後ろ盾無しに博打を打つには麻雀は強すぎるし、形振り構わない恥知らずな馬鹿もできない・・・・・・」

草を押し分け、転がったオレの隣にアカギが腰を下ろす気配。

「どうせ今日だって、最初は逃げなかったんだろ?」

アタリ。

やってもないイカサマをしただのと絡まれて、変わった髪色や肌から生まれのことまで揶揄されて、頭に血が上った。

相手は一人だと高をくくったのが運の付き。
仲間に囲まれて、謝れだの勝ち金を置いていけだの言われて、つい噛み付いてしまった。

「悪いコトは言わない。博打はやめなよ・・・」

半端に強くて、致命的な場所で弱いんだよ。と何度目か分からぬ言葉が掛けられた。

「・・・・・・・・・」

是とも否とも答えられない。
アカギの言葉は認めたくないが、的を得ている気もする。

けれど、

いつか、致命傷になるとは言われても、今さら他に何が出来るって言うんだ?
故郷も捨てた。生家もない。家族ももう居ない。
たまたま今まで運が悪かっただけだ。
アカギを名乗るまで、それなりに上手くやってきた。

「死にたいの?」

ヒヤリと骨ばって冷たい手が顎に触れ、嫌味な程長い指が首に巻きつく。

「・・・・・・・・・ッ」
「縊ったりしないよ。殺して欲しいってんなら考えてあげないでもないけど」

息を呑んだオレに小さく笑うアカギの声。

「・・・たくねぇ・・・死にたくない・・・生きてたい・・・・オレはっ・・・・」

こんなまま。ゴミや紙くずみたいに都会に埋もれたまま。死にたくない。
誰に、何にと、もう具体的な相手は思いつかないが。
抜きん出たい。見返したい。世間を。何もかも。
自分の不遇を、不運を、全てチャラに出来るような。
そんなチャンスを待っている。

偽アカギは失敗しても、オレは全くの無能じゃない。
オレは能無しじゃない。アカギが現れるまでは上手くいっていたんだ。
今は息を潜めているが、次のチャンスにはしくじらない。

「平山さん、ギャンブルで、死にたいの?」

首に巻かれた指に僅かに力が篭る。
硬い唾にオレの喉が動いた。
縊らないと言っていても、こいつは狂人だ。何を仕出かすか分からない。

「・・たく・・・・・な・・・死にたく・・・ない」

震えかけた声を、懸命に手繰り寄せる。
野生動物に遭遇した時目を逸らすなという言葉が何故か頭をよぎった。
目は最初からあわせてないが、今、アカギとオレの精神は至近で対峙している気がした。

「ギャンブルで死にたくないんでしょ?だから・・・・・・」

するり。と嘘のように手が離れる。

「だから、アンタは幸せな人なんだよ、平山さん」

どこか遠い痛みを抱えたような、アカギの声。
19の青年のはずが、中学になるかならぬかの子供の声にも聞こえた。
まるで、子供が泣いているような・・・・・・

「・・・アカギ?」

思わず顔を隠していた腕を外す。

「・・・やっとオレを見たね。つれないね、平山さん」

飄々と人を食った声も、何時も通り。

けれどその表情は高くなり始めた朝日を背負い、陰になってよく分からない。
オレを呼ぶ声は存外に柔らかく優しい。

「アカギ・・・お前は・・・・・・」

幸せじゃないのか。と聞こうとしてやめた。
そんな浅い所に棲んではいないだろう。この男は。
けれど、深海の魚が生涯見ることのない太陽を恋い慕うという昔読んだ童話を何故か思い出す。

胸の奥が熱い。
哀れ。という言葉に近い情が湧いてきたが、そんな言葉を欲しがる男でもあるまい。
目の鼻の奥もツンと痛いが、怪我人の側で気遣いなく煙草をふかせたコイツの所為ということにしておいてやろう。

「起きたなら、朝ご飯食べようよ。ご馳走になってあげるから」

どこかズレた癪に障る言い回しも、何時ものアカギだ。
手を引いて助け起こされる。

「お前・・・怪我人にたかるのかよ?」
「平山さんに奢れる甲斐性なんて期待してないし。どうせ作り置きのオカズと冷や飯で何時もの朝ごはんでしょ?」

質素な割りにはおいしいよね。アレ。とオレの腕を肩に担ぎながら一方的に決め付けてくる。
質素だ何だと言いながら、コイツは時々オレに飯をたかりにくる。

金が無い訳ではない癖に店に行くのは嫌らしい。
何時もオレのアパートに来ては飯を出せと我が物顔だ。
何度か鯵の開きだの鮭だのを横取りされてから、常備菜を少し増す癖がついた。
食材費くらい出せと言えば、札束を投げ寄越しやがった。絶対こいつの頭の螺子がぶっ飛んでやがる。
こんなに取れるか、オレはたかる気はないと突き返せば、その金が無くなるまでは飯を食わせろとねじ込みやがる。
もう諦めて、銀行に別口座を作り、家計簿から算出したアカギの飯代だけを引き落とすことにしていた。

「・・・・・・今日は卵がある」
「玉子焼きか。葱が入った出汁巻きがいいな」
手間が掛かるものを食いたがる奴だ。

「食器はお前が洗えよ」
「気が向いたらね」

「食う前に手を洗えよ」
「忘れなかったらね」

一々が素直じゃない奴だ。

オレにそんな事を言うのはアンタぐらいだと、何が可笑しいのか喉の奥で愉快そうに笑ってやがる。

些細な事を言われるまで遣らない。
というより、アカギはオレが我慢できず口煩く言うのを見越して態と嫌がらせをしてるんじゃないのかと勘繰りたくなるずぼらさを時々見せ付ける。

土手に上がれば正面の朝焼けが目にまぶしい。

「死なないでよね。平山さん。オレ、割とアンタを気に入ってるから」
「縁起でもねえよ。馬鹿」

肩を担がれ、やはりアカギの表情は見えないが、なんとなく、本気で怒る気分にはなれない。
近所の小学校に入ったばかりのガキが、オレが東京に行くって言った時の泣きそうな顔がふと脳裏を過ぎる。

「預かった飯代、まだすっげえ残ってるからな・・・」
隣で僅かに気配が揺れる。伝わってくる微かな驚愕の気配。少しだけ胸が空いた。

「平山さん、やっぱアンタ、馬鹿だね」
今度こそ、我慢ならないと言いたげに、ケラケラと笑う。不思議と嫌な気はしない。

無くなったら言ってよ。何時でも追加するからと言う。
それじゃ金が無くなるまでって約束は無期限じゃねえか。
まあ、無くなってても食わせろって言われたら飯ぐらい出してやると思うが。
と言えば、怪我人を担いだままこっちの傷に響くぐらい笑い転げやがった。

「・・・なあ、オレの飯って、美味いのか?」
とかくこの街は物価が高い。
主に財布の必要に迫られての男の自炊だ。高級な食材を使っても居ない。
何故こいつがココまでオレの飯に執着するのか不思議だった。

「・・・不味くは、ないね・・・」
いい年こいて反抗期かお前は、と言いたくなるような捻くれた言い回しも、今は気にならない。

不味くは無いか。そうか。
オレの飯は美味いか。

それならいい。

「飯を食うのは、善いことだ」

今日、何度目か忘れたが、アカギが隣で盛大に噴き出す。

「ッ馬鹿ッ熱ッちいなァッ!…煙草こっちに落とすんじゃねぇよ!」

ハイライトまで落として声も出ない風に身を捩って笑ってる。
こうやってると、コイツも一緒に馬鹿やってる同い年のただの男なのになあ。
本当に変な奴だ。
けど、他の奴らが言うみたいに危険極まりないただの狂人とも思えない。

「いつか・・・・・・」
オレも胸の隠しから若干よれた煙草を取り出し、火を入れる。

吐き出す煙。
その先は言葉にならなかった。
する必要も感じなかった。
言い切れるものじゃないと、何となく理解していた。

けれど、いつか、どんな些細な事でもいいから、この男がギャンブルとは無関係に幸せだと思う日が、来ればいいなと。
白く次第に力と熱持ち始めた朝日の中を並んで歩きながら、オレは思っていた。

END

大変っお待たせしました!まだ絵描きになっていなかった時期の初戦麻雀でボロ負け記念ですね。
越境させるとアカギとカイジがしてそうな会話だなかと思いましたが。
越境なしだと、アカギと平山ってこういう会話してそうだな。と勝手に思ったら自然に話しが流れました。
もしも、fkmtを知った時に越境って概念がなかったら、この組み合わせにハマっていたかも。
アカギは天で人の心が〜って言ってたので、フグが好きってより、人が手間隙かけてくれたモノが好き。
と解釈したけど、間違って・・・ませんように><
なんか、寂しがりなのかなあとか、ちょっと勝手に思ったりしました。
何故か13とか19のアカギにはおいしいご飯食べさせてあげたいと思います。
高級料理じゃなくて、炊きたてご飯とか作りたての味噌汁に焼きたての魚とか。そういう。
市川さんは置いといて、南郷さん・平山・カイジは作ってくれそうですね。
平山の命日周辺に練り上げた話なので、何か寂しい雰囲気になってしまいました。

せめて一時平凡なあったかい時間が二人にあればいいなと思いました。

お待たせしました、悪牙さん!赤平って指定だったけど、赤+平みたいです^^;
がっかリュージョンで失礼しました!返品可です><。


展示室に戻る

TOP