罰符にて
じゃれさんへ
「幸雄の服を 強奪した 着た零」
おまけ 平カイ+零→カイSS
カイジのバイトのオフに合わせてうきうきと出かけた平山に昼下がりの災難。
***
「え?オレの家に来る途中で斧を持った高校生の義賊に追いはぎされた?」
自分の姿を見るなり、しがみついてしくしく泣き出した平山の背に上着を着せ掛けながらカイジが唖然とした声を出す。
携帯で呼ばれたカイジが、自分の服一式を持って現れた時、
平山は路地裏でゴミバケツの裏にしゃがみこんで身を隠し、サングラスとパンツ一丁でぷるぷる震えていた。
服を剥がれただけで、怪我も無ければ携帯や財布貴重品は無事だったが。
そういう問題でもない。
カイジより先に誰かに見つかれば、通報沙汰にすらなってしまう。
「…きょ…今日っ…でーとっ…一張羅のシャツっ…カイジさんとデートでっ…」
新調したての真っ赤なシャツにクリーニングから戻ったばかりのスーツ。
髪も整え、グラサンも磨いて最高に格好をつけたハズが、パンツ一丁で再会するハメになった平山の心の傷は深い。
「怪我も無かったんだしさ…泣き止んでよ?約束してた映画行く?オレんち来る?帰って着替える?」
「…カ、カイジさんの…家…行く……」
ハンカチで頬を拭かれシャツの釦を留められながら、漸く平山の涙が止まる。
寄りにも寄ってデート当日、平成の日本で追いはぎに遭うという、ありえない不幸に見舞われたが…
よく考えれば今自分が着ているのはカイジの服…カイジの着ていた服。カイジの肌に触れていた布っ…!
「…カ、カイジさん…あ、新しい服、買って返すね」
「え?別にいいよ?洗えばいいだけだし」
「あ、じゃ、じゃあ今度オレの服あげるっ」
「ん?いいって、気を使わなくてもさ」
(洗わないでください。カイジさんの服が欲しいです。オレの服をあげるから着てください。出来れば素肌に着てください)
不運にも耐性が付いたのか、割合早く復活してきた平山は、ストレートに本音を言いたかったが、
なんとなくカイジにとてつもなく怒られそうで止めておいた。
「平山さんが怪我しなくてよかったよ…零には今度きっちり言い聞かせておくから」
追いはぎは近所のやたら自分に懐いている高校生なのだと、頭を下げるカイジに、
カイジが謝るコトではないと、平山の方が焦ってしまう。
「でも…追いはぎなんて酷いことを平山さんに…」
「あ、じゃあ…じゃあさ…寒かったから…カイジさんの部屋で……」
カイジに近づき、腰にまわした腕で引き寄せた恋人の、耳元へ唇を寄せる。
「カイジさんに、暖めてもらいたいな」
囁きと吐息の熱が移ったようにカイジの頬から耳までもが一気に紅色に染まる。
「…駄目?ねぇ…寒いなぁ…寒かったなぁ…ねえねえカイジさん?」
頬を摺り寄せ甘えてくる男に、カイジは更に火照った頬を隠すように小さく頷く。
「カイジさん大好き!」
「わかった!分かったからっ……でも、あんま無茶…しないでくれよな……」
見えない尻尾を盛大に振って抱きついてきた長身の男は、時折タガが外れる。
けれど、嫌いではない。
というよりも…誰よりも好きだから。多少の無茶も聞くし。セクハラも最後は許してしまう。
…やっぱ、どうやっても…
「オレだって、平山さんが、さ…大好きなんだよ?」
その一言が平山を至上の歓喜で満たす。
限りなく不幸で同時にもっとも幸運な男は、不運の後に釣りが来るほどの幸運に小躍りしながら
カイジを伴って路地裏を抜け出した。
***
その後、
「デート流れたの?じゃ、オレと遊びに行こう?カイジさんはこういう服が好きなんでしょ?」と笑顔で既に部屋に上がりこんでいた零と、
再び一悶着が始まる数十分前のお話。
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